院長ブログ
(Blog)外陰部(デリケートゾーン)がかゆい
外陰部のかゆみは小さなお子様から、ご高齢の方まであらゆる年齢層の方に見られる症状です。
恥ずかしさや個人的理由で受診をためらわれることが多いようです。
痒みを伴う皮膚疾患の多くは皮膚症状として赤く腫れるなどの湿疹を伴います。
湿疹を伴う疾患には接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、硬化性萎縮性苔癬(たいせん)など、
感染症である細菌性膣炎、カンジダ外陰膣炎、性感染症(膣トリコモナス症、淋菌感染症:りんきんかんせんしょう、尖圭コンジローム:せんけいこんじろーむ、コンジローマ)の他、閉経以後に見られる萎縮性膣炎などもこれに含まれます。
※数が多いため、疾患名を選択すると各疾患の説明に飛べます※
また、湿疹などの皮膚症状がないのに痒みだけがある疾患は皮膚掻痒症といいます。
今回はそれぞれの疾患の内容をまとめてみました。
皮膚に異常を認める湿疹
皮膚の表面に起きる炎症を湿疹、または、皮膚炎と呼びます。
湿疹には急速に一連の経過をたどる急性湿疹と、湿疹が再発を繰り返すことにより皮膚が乾燥し、更に肥厚し硬くなる慢性湿疹があります。
急性湿疹:は軟膏、内服薬などの治療を行うことにより、速やかに改善します。
急性湿疹の経過:
1 紅斑(こうはん:赤み):皮膚に炎症が起き、毛細血管が拡張する
2 浸出性丘疹(きゅうしん:ブツブツ):浸出液が皮下に染み出て、ブツブツしたふくらみができる
3 小水疱(水ぶくれ):さらに浸出液がでる
4 膿疱(膿を持つ水ぶくれ):炎症が進んで水ぶくれの中に膿がたまる
5 びらん(ただれ):水疱や膿疱が破れてビランを形成する
6 かさぶた:浸出物が固まってかさぶたを作る
7 落屑(らくせつ、皮膚やかさぶたのはがれ):皮膚のターンオーバーによってかさぶたがはがれて治癒する。
慢性湿疹:湿疹が再発を繰り返したり、病変を掻き続けたりすることで色素が沈着したり、皮膚が分厚くなった状態が慢性湿疹です。
慢性湿疹の場合はアレルギー、免疫機能、身体状態、精神状態、ストレスなどに左右されるため、検査をして原因を調べていきます。
接触性皮膚炎:
皮膚疾患の中で最も多くみられる病気で特定の物質に触れることでアレルギー反応などを起こし、赤み、ブツブツ、水ぶくれができ、強い痒みや痛みを生じます。
アレルゲンによっては極短時間の接触でも湿疹を誘発することがあります。
原因はナプキンなどの生理用品、外用薬、下着など、その人にとって感受性があるアレルゲンとの接触によって起こります。
治療はアレルゲンを避け、ステロイド軟膏、内服薬など使用すれば軽快します。
脂漏性皮膚炎:
顔面、頭部、腋の下、陰部など皮脂の分泌が盛んな場所によく見られる病気です。
皮膚が赤くなり、細かく皮がむけます。成人の頭部のフケも脂漏性皮膚炎の症状の一つです。
病気の原因や症状が起こる仕組み:
皮膚の新陳代謝、つまり、古い細胞と新しい細胞が入れ替わる代謝のサイクルが非常に速まることで発症すると考えられています。皮脂の分泌が多い個所が、皮膚の常在菌によって刺激を受けることで炎症が引き起こされ、次々、細胞が死んでいき、さらに再生されるというサイクルを繰り返すということです。
最近では真菌の一種であるマセラチアとの関係が指摘されています。この真菌は皮脂の多い部分を好んで生息する真菌ですが、皮膚に炎症を起こさせる作用が強いことが知られています。
検査と診断:脂漏部位に境界がはっきりした紅斑が現れた時には本症を疑います。
治療方法:
頭部の厚い鱗屑(りんせつ)にはベビーオイルやワセリンを塗って数時間後に洗髪して、鱗屑を優しく取ってあげます。
外陰部の病変には抗真菌剤のケトコナゾールクリームやローションにステロイド軟膏を追加します。
皮脂欠乏性湿疹:
冬の乾燥した時期に特に多く見られます。特に、中高年の方などで、皮膚の表面のうるおい成分である皮脂の分泌が低下すると、皮膚が乾燥してカサカサの粉をふいた状態になり、更に掻くことにより湿疹を生じやすくなります。中高年の下腿、臀部,上肢などに多くみられ、痒みを伴います。
治療:保湿クリームを頻繁に使用してスキンケアに注意します
保湿剤(尿素軟膏、ヘパリン類似薬剤、白色ワセリン)の外用を行います。
湿疹や痒みのある場合にはステロイド剤を使用します。
注意点:
皮脂を落とし過ぎないようにすることが大切です。石鹸を過剰に使用しない、ナイロン製のタオルやスポンジで体をごしごしこすらない。入浴後は保湿クリームを使用する。
部屋の温度、湿度を適度に保つ。
硬化性萎縮性苔癬:
聞きなれない病気ですが、中高年の女性の陰部粘膜やそれを取り囲む皮膚が痒みを伴い白く硬くなる病気です。限局して見られることもありますし、陰部に広範囲に生じることもあります。慢性に経過する病気でステロイド軟膏やタクロリムス軟膏を使用します。
ただ、長期にわたり硬化性萎縮性苔癬におかされている病変部から、有棘細胞がんが生じることがあり、注意が必要です。
外陰部皮膚のかゆみを伴う感染症
細菌性膣炎:
膣内は常在菌である乳酸桿菌(デーデルライン桿菌:かんきん)が膣内を酸性に維持することで他の菌の増殖を抑えていますが大腸菌、各種連鎖球菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌などの感染による帯下(たいげ:おりもの)のため、皮膚に炎症を起こし、痒みを感じることがあります。
常在菌を確認して、常在菌の自浄作用に影響が少ない膣剤を使用します。
痒みには非ステロイド軟膏やステロイド軟膏を使用します。
カンジダ膣炎:
原因:常在菌であるカンジダ アルビカンス、カンジダ グラブラータなどの真菌が膣内や外陰部に繁殖して発症します。免疫力の低下、抗生物質の使用、妊娠、糖尿病、ステロイド服用、通気性の悪い下着の着用などが誘因となります。
症状:外陰部の痒み、痛み、腫れ ヨーグルト状、酒粕様の帯下(たいげ:おりもの)
診断:膣分泌物の塗沫検鏡、培養法
治療:オキナゾール、アデスタンG、エンペシッドなどの膣剤挿入
抗真菌軟膏の外陰部病変部への塗布
経口剤の同時投与も推奨されています。
ジフルカンカプセル:150mg経口剤服用
膣トリコモナス症:
若年層から中高年まで幅広い年齢層で見られる。
性行為以外にも衣類(タオル、下着)、便座、浴室などからでも感染することがあります。性交経験のない女性や幼児にもみられることがあります。
病原体はトリコモナス原虫の接触感染
症状:外陰部の痒み、おりものの嫌なにおい、泡立ちのある黄緑色のおりもの
検査:膣分泌物の塗沫検鏡、培養法
治療:フラジール膣錠の挿入 フラジール経口剤の服用:フラジール250mg:2錠x10日
淋菌感染症:
20歳代の女性に多く、近年増加傾向にある性感染症です。
約半数は無症状
治療せずに放置すると上行性に感染し、骨盤内炎症性疾患(PID)を発症します。また、不妊、異所性妊娠の原因となることがあります。オーラルセックスによる咽頭感染が増加しているのが最近の特徴です。耐性菌の出現も問題となっています。
原因:淋菌 潜伏期:2-7日間
症状:黄色のおりもの 排尿時の違和感 外陰部のかゆみ、腫れ 喉の痛み
検査:子宮頚部、咽頭の擦過検体からの淋菌PCR検査
治療:ロセフィン1g:点滴注射 トロビシン2g:筋注
セフスパンカプセル:2錠x3日
尖圭コンジローム:
10-20歳代に多くみらる性感染症です。HPVワクチンで予防できます。
外陰部だけでなく、膣壁、子宮膣部、肛門周囲にもみられます
原因:病原体 ヒトパピローマウイルス6,11型の感染 潜伏期間:3週から、8カ月間
症状:外陰部、膣内、肛門周囲に弾力性のある、大小不同、イボ、鶏冠状腫瘤を形成します。
外陰部の痒み、痛み 性交痛
検査: 肉眼所見、組織検査
治療:ベセルナクリームの塗布 電気メスで焼灼、切除、冷凍療法などの外科的治療
4価HPVワクチン(ガーダシル)9価HPVワクチン(シルガード)による予防が可能です。
処方:ベセルナクリーム1日1回 週3回x16週間まで処方可能、就寝前に塗布、起床後、洗い流す。
萎縮性膣炎:
閉経後にはエストロゲン分泌低下により、膣、外陰粘膜の萎縮が起こり、膣の乾燥感、外陰部のかゆみ、違和感、不快感、性交痛、少量の不正出血などの症状が出現することがあります。
治療としては更年期症状が強ければホルモン補充療法を行い、強くなければ、局所療法としてエストロゲンクリーム、ホーリン膣錠などの膣錠を使用します。痒みには非ステロイド軟膏、ステロイド軟膏を処方します。
皮膚搔痒症については次回につづきます。